相続コラム~遺産分割~

遺産分割調停の進め方

遺産分割調停では、裁判官1人と調停委員2人の調停委員会が構成されます。

ただ、裁判官は、最初の期日にあいさつだけして、後は大事なとき(中間合意をする際や、調停成立・不成立のとき)だけ出席することが多く、ほとんどの期日は、調停委員2人だけで切り盛りします。

調停では、次のような順序で手続きを進めていきます。

1 相続人の範囲を確定する。

2 遺産の範囲を確定する。

3 遺産を評価する。

4 特別受益と寄与分を確定する。

5 具体的な分割方法を決定する。

それぞれの段階で細かな問題点はありますが、弁護士として調停手続に関与して、最も揉めることが多いと感じるのは、2の遺産の範囲確定の段階です。

「ほかにも不動産があるはずではないか」というシンプルなものもあれば、「預貯金がもっとあるはず。他の相続人が勝手に払い戻したんだ」という不正払戻や使途不明金の問題、「葬儀費用を遺産から出しているけど、これは喪主が負担すべきものだ」という葬儀費用の処理の問題まで、実にさまざまな論点がひしめいています。

調停委員からも、遺産の範囲の確定がひとつのヤマなんです、というコメントをいただいたことがあります。

より細かく主張しようと思えばどこまでも主張できる問題でもあるため、裁判所も、ある一定のところで区切りをつけなければいけないという考えがあります。

そこで、遺産の範囲のもめごとや感情的対立、遺産分割に直接関係のない事柄等は、期日を3回だけ使うが、それを超えても解決しないような調停では扱わないという「3回ルール」が運用されています(他の裁判所では明言されたことはありませんが、東京家庭裁判所では「3回」と明言していました。)。

ではどうするかというと、遺産として他にも●●があるはずだということを求めるのであれば、地方裁判所に遺産確認の訴えを提起するなど、遺産分割調停以外の手段を用いるように誘導されることになります。

訴訟をして勝ち目がある主張ならいいですが、法的に主張立証が難しいのであれば、ある程度のところで矛を収める姿勢も肝要です。

(執筆日:2016年9月3日)

使途不明金があることが発覚した場合

相続が発生した後、相続人であれば戸籍等の必要書類をそろえて、金融機関に預貯金の残高証明書や取引履歴の開示を請求することができます。この際、多額の出金の記録が見つかることがあり、トラブルへと発展することがあります。

その多くは誤解や親族間のコミュニケーション不足により生じていることが多いように思われますので、使途不明金だとして大事にする前に、以下のポイントで客観的かつ冷静に整理することが肝要です。

 

1 出金時期が相続発生前か後か

相続発生前の出金であれば、原則として、それが多額のものであっても被相続人の意思に基づくと考えられます。被相続人の生前の意思は尊重すべきですので、例えばその出金した現金が相続人の手に渡っていたとしても、相続発生後になって、返金を求めることは難しいと思われます。

他方、相続発生後の出金であれば、被相続人以外の者の手が介在しているはずですので、通帳と印鑑を管理していた者(通常は被相続人と同居していた親族であることが多いでしょう)に確認する必要があります。葬儀費用等に支出していればまだ話し合いの余地はありますが、完全な私的な事情のために払い戻したというのであれば、不当利得として返還を求め、あるいは不正払戻を不法行為として損害賠償請求することが考えられます。

2 現金が誰に渡ったか

前述のように、相続発生前に被相続人本人が多額の現金を払い戻し、相続人に贈与されたとしても、それが被相続人の意思に基づくのであれば、直ちに返還を求めるという話にはなりません。

ただし、この場合も、遺産の前渡しと言えるような多額の贈与であった場合には、特別受益(民法903条)として考慮することで、相続人間の不公平を是正するように取り扱うこともあります。

3 出金時点で被相続人に判断能力があったか

仮に相続発生前の出金であったとしても、当時被相続人が重度の認知症で、自ら払い戻しはできず、また第三者に委任できるような状況でもなかった場合は別の考慮が必要になります。通帳と印鑑を管理していた者に対し、事実を確認する必要が生じるでしょう。

 

遺産分割調停では、預貯金の金額に争いがある場合、広義での「遺産の範囲」を取り決める段階として、相続人間で合意が得られるか話し合いになることがよくあります。

しかし、相続人間の溝が大きく、とても話し合いでは解決できないと裁判所が判断した場合は、調停は打ち切り、訴訟へと誘導されることになります。

使途不明金の存在を主張する側の相続人は、仮に訴訟にした場合に勝訴の見込みがどの程度あるか、その程度に応じて、早期に調停で譲歩することにどれだけの経済的合理性があるかを判断し、調停での方針を判断する必要があります。

訴訟にした場合、不当利得あるいは不法行為に基づく請求がどこまで認められるか、その証拠価値の判断は難しい点もありますので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

(執筆日:2016年9月5日)

遺産に賃貸物件がある場合の賃料収入の処理

遺産として、預貯金と自宅土地建物の他に賃貸マンションがあり、毎月9万円が賃料収入としてあると仮定します。相続人がA、B、Cと3人いて、現在、遺産分割調停で協議中ですが、遺産の分け方でもめていて、合意に至るまでにある程度の時間がかかりそうです。そうした場合、賃料収入はどのように処理されるのでしょうか。
 
そもそも、賃料は厳密に言えば相続財産そのものではなく、遺産分割調停のなかで話し合うべきものではありません。ただし、実務上は、相続人全員が調停の対象にすることに合意すれば、調停の対象にすることができますし、そうするケースが多いように思います。
しかし、あまりにも相続人間の認識に溝があり、賃料について調停での話し合いが困難であれば、地方裁判所などで別途解決の道を探ることになります。
 
さて、遺産から生じた賃料収入の帰属については、最高裁判所が次のような判断を示しています。
 
「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」(最高裁平成17年9月8日)
 
このまま読むと意味がわからないかもしれませんが、要するに大きなポイントは次の2点です。
1 遺産分割方法が確定するまでは、賃料は相続分に応じて相続人が取得する。
2 遺産分割方法が確定しても、それまでに取得した相続分に応じた賃料は返還する必要がない。
 
さきほどの例に当てはめて考えると、次のようになります。
遺産分割調停中は、相続人3人は、賃料をそれぞれ3分の1ずつ、つまり3万円ずつの賃料を取得します。相続発生から調停がまとまるまで1年かかり、相続人3人はそれぞれ36万円ずつの賃料を受け取りました。
その後、調停がまとまり、Aが自宅土地建物を、Bが預貯金を、Cが賃貸マンションを相続することになりました。その場合でも、Cは、賃貸マンションは結果的に自分が相続したのだからと言って、今までAとBが受け取った賃料合計72万円を請求することはできません。Cが賃貸マンションの賃料9万円を全額取得できるのは、調停成立後のもののみです。
 
また別の観点から考えると、相続人3人は、賃料という収入を得ているので、確定申告をして所得税を納める必要があります。
きちんと全員が賃料を取得していれば大きな問題にはなりませんが、実務上、相続人の特定の1人が賃貸マンションを管理していて、賃料を他の相続人に渡さないことがよくあります。
この場合でも、他の相続人には賃料債権は発生しているので、所得が生じているとみなされ、所得税を納めなければなりません。
特定の相続人1人が賃貸マンションを管理してしまうと、管理費や修繕費の扱いなどでもめることもありますので、できれば費用がかかったとしても管理会社に委ねてしまったほうが安心です。
(執筆日:2016年9月5日)

不動産の評価の決め方

遺産分割調停において、遺産の範囲が確定した後に問題になることが多いのは遺産の評価です。

例えば、遺産として自宅土地建物しかなく、相続人Aはそこに居住しており自宅の取得を希望しているので、相続人Bに代償金を支払う必要がある場合などに、自宅の評価を確定する必要があります。

不動産の評価の決め方は、原則として、相続人全員が合意すれば裁判所もそれに従いますが、適当に金額を決めてしまうわけにもいきませんので、一例を示しておきます。

1 公示価格

国土交通省が全国の特定の標準値について、毎年1月1日を基準日として公示する価格です。

2 固定資産税評価額

個別の不動産毎に、土地家屋課税台帳等に登録されている価格です。3年に1回しか評価替えがされませんので、価格変動が大きい年には修正をする必要がありますが、公示価格と異なり個別の不動産について設定され、かつ、土地の地形や立地などの個別的要因も考慮しているので、参考にすることも多い価格です。

3 相続税評価額

国税庁が相続税等の基準として、毎年1月1日時点で公表している価格です。

これには地域によって路線価方式(路線につけられた1㎡当たりの1000円単位の評価額で算出する方式。主に市街地。)と倍率方式(固定資産税評価額に対し一定の倍率を乗じることで評価額を算出する方式。主に市街地以外。)に分けられます。

路線価は毎年評価替えされていますし、相続税申告にも用いる価格なので当事者の合意が得られやすい価格でもあります。

4 私的鑑定

不動産仲介会社などが、売却仲介に先立ち発行する無料査定書等が不動産評価の手法として用いられることもあります。ただ、往々にして依頼者のバイアスがかかっていることもあり、取扱いには注意が必要です。

5 裁判所による鑑定

相続人間で遺産の評価につき合意が得られない場合は、裁判所が鑑定人を選出して不動産の鑑定を行います。事前に鑑定費用は予納しますが、相続人が法定相続分の割合で負担することが多いようです。

 

どうしても評価の合意に至らない場合には、裁判所で鑑定を実施する他ないこともありますが、鑑定にも費用はかかりますし、時間もかかります。ある程度のところで妥協して評価合意するのが経済的に合理的なのか、鑑定費用を支出してでも鑑定に持ち込むべき事案なのか、慎重な判断が必要です。

(執筆日:2016年9月5日)

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